天使のような笑顔で
「準備……?」


「……高崎、もしかして知らないのか?」


そう尋ねた先生の顔は、明らかに狼狽していて。

嫌な予感が、胸を過ぎった。


「何の…話ですか?」


俺が、何を知らないって……?

安以が何の準備をしなくちゃいけないって?


「何の話だよ?真人っ」


和也も同じらしく、そう先生を問い詰めている。

珍しく眉間に皺を寄せている先生は、答えていいものかと悩んでいるようで。


この間が、ひどくもどかしかった。


「おい真吾っ、もう始まるぞっっ!」


コートから、チームメイトが手招きして呼んでいる。

確かに、もうすぐ試合開始の時間になる。


「先生、教えて下さいっ」


だけど、このままじゃコートには戻れない。

俺の知らない安以の何かを、きちんと先生から聞くまでは。


「もう時間だ、高崎。コートに急げ」


だけど、先生は教えてくれない。

渋い表情を浮かべるだけで、その訳を聞かせてくれないんだ。


「嫌です。先生が話してくれるまで、ここを動きません」


コートからは、相変わらず俺を呼ぶ声が聞こえ。

両チーム共に、シュート練習を終えたのが見える。


試合開始まで本当に間が無いって分かっているけど、俺はここを動けなかった。
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