天使のような笑顔で
「お前との試合、もっと楽しめると思ったんだけどな。まぁ、代わりに全国の切符取って来てやるよ」


少しがっかりした顔を見せながら。

矢島は、「じゃあな」と言って先に走って行ってしまった。


全国の切符。


それは、中学でバスケをやってる奴なら誰もが目指しているもので。

もし俺がいつも通りのプレーをしていたのなら、もしかしたら近付けていたのかもしれないのに。


「俺の…せいだ」


俺が心を乱していたせいで、チームのみんなを勝たせてやれなかった。

その為に、みんなで今まで頑張ってきたのに。


だけど、正直なところ。


試合に負けた事よりも、もっとショックな事が俺の心の中を占めていたんだ。

島崎先生から聞かされた、あの言葉。


『実はな、高崎。桜庭さん、近々転校するんだよ』


全くの初耳だった。


『だって彼女は、先月転校して来たばかりですよ。なのに、なんでまた転校しなくちゃいけないんですかっ?』


そう尋ねた俺に、先生は少し悲しそうな表情を浮かべていた。


『急遽、お父さんの仕事の都合でドイツに行く事になったんだよ』


『ドイツ……』


それは、あまりにも衝撃的だった。


せめて国内だったら。

離れていたって、何とか会えるように努力するけれど。


海外になんて行かれたら、そう簡単には会えやしない。
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