天使のような笑顔で
もう出てくれないだろうと思っていたから、心の準備がちゃんとできてなくて。

自分から電話を掛けておいて、俺は1人焦ってしまっていた。


『真吾……?』


俺が何も言葉を発しないので、安以が不安そうに尋ねてきた。


このままじゃいけないと思い。

軽く息を吐いて心を落ち着かせ、俺は電話の向こうの安以へと話しかけた。


「安以、今日…都合悪くなったの?」


なるべく平然を装い、俺は何も知らない振りをしていた。

俺から訊くんじゃなくて、ちゃんと安以の方から言って欲しかったから。


『……ごめんなさい、ちょっと急用ができてしまって』


申し訳なさそうに謝る安以。

俺としては、その急用が何なのかがすごく気になるところだった。


「……そっか。安以、そういえば高校は決めた?」


何の脈絡も無い、突然の質問。

だけど、俺にとっては重要な質問だった。


『えっ?あっ、それは……』


はきはきしている安以らしからぬ返答。

それは暗に、もうすぐいなくなる事を知らせているかのようだった。


「じゃあさ、クリスマス…どっか行きたいとことかある?」


『えっ?クリスマス…ですか?』


明らかに、動揺している声。

俺が知りたかったのは、安以がどこに行きたがってるのか?じゃなくて。


4ヶ月先まで、安以がいてくれるかどうかだった。
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