天使のような笑顔で
でも、この様子からしたら。

クリスマスまでは、居てくれなさそうな気がしてきた。


「10月にさ、体育祭あるんだよね。うちの学校、毎年結構大がかりでさ。安以は…何の競技に出たい?」


『体育祭ですか……』


自分でも、遠回しすぎてイラついてくる。


はっきり、「ドイツにはいつ行くんだ?」って訊けばいいのに。

臆病な俺は、その答えを正面から受け止める勇気が無かった。


「……9月26日、俺の誕生日なんだ。一緒に…祝ってくれるよね?」


もう、これが限界だった。

怖くて、これ以上は日にちを早めていく事ができない。


せめて、誕生日を一緒に過ごして欲しい。


それが…今の俺の儚い願いだった。


『真吾、私……』


困ったような、苦しいような。

そんな声が、電話の向こうから聞こえてきた。


その安以の言葉に、俺の心臓は激しく反応していた。


速く大きく脈を打ち。

過呼吸のように、次第に息つぎの間隔が短くなっていく。


その後に続く言葉を想像し。

不安の渦に全身を包まれてしまっていた。


『私、実は……』


苦しそうな、安以の声。

ドイツに行くっていう事を、今から打ち明けようとしてるんだろうか。


でもさ、安以。

俺も…苦しいんだよ。


君の言葉を待っている俺も、めちゃくちゃ苦しいんだよ?
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