天使のような笑顔で
「……何に対して意地張ってんだよ?」


軽い溜息と共に吐かれた、和也の言葉。

手にしていた資料をバサッと机の上に置くと、和也は両手を頭の後ろに持って行った。


背もたれによりかかりながら、椅子を小さく前後に動かす。


「別に、意地なんて張ってないよ」


図星を指され、自然と顔が歪む。

見透かす様な和也と目を合わせたくなくて、机に置かれた資料へと視線を注いだ。


体育祭という文字に、何だか切なくなってくる。


「もし彼女が休みの間にドイツに行く事になっても、お前はこのまま会わないつもりなのかよ?」


和也の問い掛けに、俺はすぐに言葉を返せなかった。


ホントは、安以ともっと一緒にいたい。

だけど、一緒にいたら別れを告げられそうで…怖いんだ。


会いたいんだよ、俺だって。

毎日だって、今すぐにだって。


「そろそろ、現実を見ろよ」


穏やかな声だった。


叱るでもなく、呆れるでもなく。

諭す様な、そんな声で。


「辛いのは分かるよ。だけど、それが現実なんだとしたらさ。残された時間…大事にした方がいいんじゃないか?」


辛い現実から目をそむけ続けていた俺には、その言葉が胸の奥まで響いて来て。

ガツンと一発、頭を殴られたような気分だった。
< 111 / 123 >

この作品をシェア

pagetop