天使のような笑顔で
残された時間……。


頭のどこかで、安以がいなくなってしまうという事は理解している。

なのに、俺はそれを認めたくなくて逃げてばかりで。


どうせ別れなくちゃいけないのなら、和也が言う通り“残された時間”を大事にしなくちゃいけないんじゃないか……?


「電話…かけてくるよ」


思い立った俺は、そう口にするとすぐに生徒会室を飛び出した。


「頑張れよっ」


背中越しに和也の声を聞きながら、軽く右手を上に挙げて見せ。

そのまま、体育館横の部室へと足を向かわせる。


もう、逃げるのはよそう。

安以とちゃんと話をして、ドイツへ行くまでの間にたくさん思い出を作ろう。


そう心に決めながら廊下を駆け抜け、体育館の前を横切ろうとした時だった。


「安以……?」


体育館の入口に…制服姿の安以が立っていた。

何かを探すように、扉の陰から中を窺っている。


突然の再会に驚いたものの、俺はこれを運命だと感じていた。

俺と安以がちゃんと話をする為に、神様が会わせてくれたんだって。


逸る気持ちを唾を飲み込む事で抑え込み。

俺は、安以の元へとゆっくり歩き出した。
< 112 / 123 >

この作品をシェア

pagetop