天使のような笑顔で
人気の無い方を探して歩いて来た俺達は、気がつくとあの木のそばに来ていた。

安以がアイを助けた、あの部室のそばの大きな木だ。


「何か、思い出すな」


青々とした葉をたくさん茂らせている大木を見上げながら。

俺は、あの時の安以の姿を思い出していた。


「そうですね」


並んで見上げた安以も、懐かしそうな表情を浮かべている。


こうしていると、とてもじゃないけど今から別れの言葉を聞かされるだなんて思えなくて。

このままずっと、2人でこうやっていたいと思ってしまう。


「まさか、転校早々こんな木に登るなんてさ」


幹から下りれなくなってしまった安以とアイを思い出すと、その怯えた顔が何だか滑稽に思えてきて。

思わず、ぷっと吹き出してしまった。


「何で笑うんですかっ?」


そう言って頬を膨らます安以は、こつんと俺の腕に拳を当てた。

その仕草が可愛く思えて、また自然と笑みが漏れてしまう。


その瞬間、俺は何だかいろいろなモノがふっきれたような気持ちになっていた。

今ならきっと、冷静に安以の言葉を受け止められるかもしれない、と。
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