天使のような笑顔で
「お、下りれません……」


その声は、今にも泣いてしまいそうで。


全く…下りれないのに、登ったっていうのか?


「とりあえず、その猫こっちに投げて?」


木の真下に近付き、俺は両手を上に伸ばした。


俺の頭より遥か上の高さに、彼女はいる。

その幹は太いとはいえ、俺まで乗ったら折れてしまうかもしれない。


「な、投げるだなんてっ」


不安そうな顔をして、彼女はその猫をぎゅっと抱きかかえた。


言い方、悪かったみたいだな。


「ごめん。投げなくていいから、そっと落として?絶対受け止めるから」


そう言う俺の顔を、彼女はしばらく真っ直ぐに見てきた。

落としていいものか、迷ってるらしい。


「ホントに、大丈夫ですか?」


「あぁ、大丈夫」


「足にケガ…してるんです」


「大丈夫」


「……分かりました」


そして彼女は、自分の手が伸ばせるギリギリまで猫を離さずに下ろし。

そっと、俺の掌に向けて離した。
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