天使のような笑顔で
「コイツの名前は?」


怪我をしてそうな左の前足をそっとさすりながら、先生はそう尋ねてきた。


「「名前……」」


俺と彼女は、顔を見合わせてそう呟いた。


確かに、首輪をしてないから野良猫なのかもしれない。

だけど、俺達が勝手に付けていいんだろうか?


「名前がないと、診察できないぞ」


冗談なのか本気なのか、先生がそう言ってくるものだから。

俺は…咄嗟に答えてしまっていたんだ。


「アイ…です」


と。


「えっ!?」


驚く桜庭さんを無視して、


「アイだな、OK」


と言って、先生は早速仔猫に呼び掛けていた。


「アイ、怯えなくていいぞ。こんな怪我して、痛かったろ?」


その声は、とても優しくて。


仔猫のアイは、すでに警戒を緩めているようだった。

されるがままに、怪我している前足をそのまま触らせている。


「……捻挫だろうな。応急処置はしといてやるよ」


そう言うと、先生は薬棚の方に歩いて行った。

一番下の棚から湿布の入った袋を取り出すと、中から一枚抜き取る。
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