天使のような笑顔で
「さ、これでよし」


先生の声に我に帰ると、アイはきれいに左の前足を包帯で巻かれていた。


嫌がるどころか。

湿布が傷を和らげていくのが分かるらしく、穏やかな顔つきになっている。


「ありがとうございました、先生」


深々と頭を下げると、彼女はそっとアイを抱きかかえた。


アイの方も、桜庭さんをすっかり信用しているようで。

頭を、彼女の腕にこすりつけている。


「悪いけどさ、アイのミルクを買って来てやってくれる?購買の自販機にミルクのパックが売ってたはずだから」


そう言って、先生はズボンのポケットから財布を取り出した。

ブランド物らしき革の財布は、お洒落な先生に良く似合っている。


中から小銭を取り出し、100円玉を1枚彼女に差し出した。


「あっ、はい。じゃあ買って来ますね」


硬貨を受け取ると、彼女はアイをそっとベッドの上に戻した。


「でも、桜庭さん購買の場所分からないよね?俺が行くよ」


そう言って彼女から100円を受け取ろうとすると、


「彼女も場所を覚えないとこの先困るだろ?ここを出て左に行って、突き当たりを右に行くと購買に行けるから。ゆっくりでいいから、行ってごらん?」


先生は俺と彼女との間に割り込むと、有無を言わさぬ口調で彼女にそう告げた。


「そうですね、せっかくなので行ってみます。高崎君、アイをお願いしますね」


そう言って、彼女は100円を握りしめて保健室を出て行った。
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