天使のような笑顔で
「さて、今度はそっちのケガ人だな」


彼女が出て行くのを見送ると、先生はクルッと俺の方に向き直った。


「え……?」


「左の手首、痛むんだろ?」


そう言ったかと思うと、おもむろに先生は俺の左手首をつかんで来た。


「いたっ!痛い、痛いよ先生っ!!」


その力が強くて、俺は思わず声を上げてしまった。


「やっぱりな。ほら、お前もそこに座れ」


そう言って、先生は顎でベッドを指した。

そこに佇んでいたアイが、何事かとこっちを見ている。


「何で…分かったんですか?」


つかんでいた手を離してもらい、俺は手首をさすりながらアイの隣へと腰を下ろした。


自分のケガの事は、言ってないはずなのに……。


不思議で仕方ない。

痛がったつもりもないし、そんな素振りを見せなかったはずなのに。


「保健医をなめんなよ?」


そう言ってニヤッと笑うと、先生はさっきの棚から湿布と包帯を持って来た。


「自分の事を言わなかったところをみると、彼女絡みのケガか?」


そう言って、今度は優しく俺の左手首をつかんできた。

いろいろな方向に軽く曲げたりしながら、何か言いたげに俺を見ている。


「彼女には…言わないで下さい」


そう言って、俺は頭を下げた。


だって、彼女を受け止めた時に痛めたって分かったら。

きっと、責任を感じてしまうから……。
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