天使のような笑顔で
「別に黙っててやるのは構わないけど、大会近いんだろ?ちゃんと整形外科行って来いよ?」


先生は、アイに貼ったのと同じ湿布を俺の手首にも当てた。

湿布が剥がれない程度に包帯を巻くと、


「そのままじゃバレるよな」


と呟いて、机の方へと歩いて行った。

その後ろ姿を見ていたら、


「ミャア」


と声がして、気付くとアイが俺の包帯を舐めていた。


「アイ……」


猫って、そういえばケガしたとこを舐めるんだよな。


もしかして、俺がケガしてるって分かるのか?

だから、治そうと思って舐めてくれて……。


「ミャーア」


そう鳴いて俺を見上げているアイが、何だかとてもかわいく思えて。

俺は、思わず抱きしめていた。


「同じ所をケガしてる者同士、やけに仲がいいな」


戻って来た先生は、俺らを見て笑っていた。

確かに、左の手首(アイは前足だ)に2人とも包帯が巻かれている。


「ホントだな、アイ。俺ら仲間だよ」


そう声を掛け、俺はアイの顎の下を撫でてやった。

気持ちいいらしく、目を細めてうっとりとしている。


「アイはいいとして、お前は彼女に包帯見られたらまずいんだろ?」


そう言って、先生は俺の膝の辺りに何かを投げてきた。


「え?」


見ると、それは紺色のリストバンド。


「俺の私物。テニスやる時にはめてんだけど、しばらく貸しといてやるよ」


「いいんですか?」


「その代わり、一回戦負けとかやめてくれよ?」


先生がそう言った瞬間、


「遅くなりましたっっ!」


と、入口から大きな声が聞こえてきた。
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