天使のような笑顔で
「えっと…そう、歯医者なんだ。虫歯が痛んじゃって」


我ながら、苦しい嘘。

だけど、彼女はそれを素直に信じてくれた。


「虫歯は、早く治した方がいいですから。また、高崎君の都合いい日に誘って下さいね」


「分かった」


そう答え、とりあえず胸を撫で下ろした。

このケガは、絶対に気付かれちゃいけないんだ。


その時、


「桜庭さんっ、こっち来て一緒に話しない?」


2列ほど向こうでかたまっていた女子達から、そう声が掛った。


「あ、はいっ」


そう言って立ち上がった彼女は、俺に小さく手を振ると女子達の方に行ってしまった。


「随分と仲良しじゃん?真吾君」


「なっ!?か、和也…お前気配無かったぞ」


いきなり左から声を掛けられ、心臓が止まるかと思ったよ。


「それより、ケガしたんだって?真人(まさと)が言ってたけど」


「先生、口軽すぎ……」


「心配してたぞ、大会近いのにって」


和也の言っている『真人』って言うのは、『島崎真人』さんで、俺らの保健医の事。

実は、和也のイトコだ。
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