天使のような笑顔で
最悪だ……。


思わず、ため息が漏れる。


引退試合をケガのせいでベンチで迎えるキャプテンなんて、最悪だよ。

ヤケになりそうな気持ちを何とか抑え、俺はゆっくりと家に向かって歩き出した。


その時、だった。


「高崎君?」


背後から掛けられた、聞き覚えのある声。


振り返らなくたって分かる。

この、ソプラノの声。


桜庭さん…だ。


「偶然ですね、こんな所で会うなんてっ」


そう言って、彼女は駆け寄ってくる。


俺はと言えば、振り返る事が出来ずにその場に佇んだままだった。

もしかして、病院から出たとこを見られていたんじゃないか?とドキドキしてしまって。


とりあえず、慌ててポケットからリストバンドを取り出し。

急いで左手にはめた。


「お家、この辺なんですか?」


俺の隣に並んだ彼女は、何だか嬉しそうにそう尋ねてきた。


「いや、もうちょっと向こうなんだ」


実際この整形外科は、学校を挟んで俺の家とは反対方向だ。

嘘でも、家がこの辺とは言えない。


「あっ、もしかして歯医者さんの帰りですか?」


そう言って、彼女は辺りをキョロキョロしだした。

運が悪い事に、この近くに歯医者は無い。
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