天使のような笑顔で
「どこ?左足?」


彼女が押さえているのは、左の足首。

転んだ時に、ひねったのかもしれない。


「保健室っ……」


言いかけて、慌てて口を閉じた。

今の保健室なんかに、彼女を連れて行くわけにいかない。


「だ、大丈夫ですよ先輩。そんなにひどくないですから」


そう言って、彼女は作り笑顔を浮かべている。


でも、そのひきつった笑顔が、彼女の足の痛みを窺わせる。


「やっぱり行っとこう、保健室」


俺は…そう決意した。


とりあえず、カーテンは閉まっていた。

俺が大きな声を上げて入って行けば、いくらなんでも2人もやめるだろう。


後は、先生が服を着る間を何とか繋いでおけばいい。


「えっ、いいですよっ」


「いいかどうかは、島崎先生が決めるから。とりあえず、乗って」


そして、俺は彼女の前にしゃがみこんだ。

おんぶする体勢を作ると、彼女を振り返る。


「えっ?そんなっっ」


焦っている彼女の右腕をつかみ、


「何かあったら申し訳ないから。頼むから、ここに乗って」


真っ直ぐに彼女を見て、俺は頭を下げた。


「せっ、先輩っ、分かりましたからっ。頭上げて下さいっ!」


そう言うと、彼女は申し訳なさそうに俺の背中に体を預けてきた。

小柄な彼女なんで、体重は別に苦にならない。


左手に負担だけ掛けないように気を付けながら、俺は今来た道をバケツを持って戻って行った。
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