天使のような笑顔で
「お前も毎日忙しいな、高崎」


そう言って、先生は笑いながら近付いて来る。


どうして、この2人は普通にしていられるんだろうか?

ついさっきまで、あんな事をしていたのに。


「で?おぶってるとこを見ると、足でも痛めたか?斉藤さんは」


「痛めたって程じゃないんですけど、高崎先輩が心配して下さって……」


会話が成立してるって事は、彼女は『斉藤さん』なわけで。

やっぱり、島崎先生はすごい。


「こいつは、自分より他人を気にする奴だからなぁ。で?どっちの足?」


「あ、左足です」


「とりあえず高崎、こっちまで運んで」


そう言って先生は、先にベッドへと歩いて行った。

閉まっていたカーテンを、思い切り全開にする。


そこで、ついさっきまで2人は……。


今でも耳に残る、2人の声。

忘れてしまいたいのに、鮮明に思い出せてしまう。


「高崎?」


ベッドを凝視したまま動かないでいる俺に、先生は不思議そうに声を掛けてきた。


「あ、すいませんっ」


我に返り、俺はベッドへと急いだ。
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