天使のような笑顔で
「えっと、斉藤さんだっけ?何組?」


「1年C組です。あっ、でも1人で大丈夫ですから」


1年の教室は、3階にある。

この足で1人で行かせるのは、あまりにも可哀想だった。


「送るだけでも、送らせて」


俺が折れないって分かったのか、彼女は申し訳なさそうに頷いた。


「私も、つき合いますよ」


そう言ったのは、ずっと黙っていた安以で。

だけど、俺はまだまともに彼女の顔を見られずにいたんだ。


「いや、いいよ。俺がやった事だし」


彼女への言葉は、自分でも何だか冷たい気がする。


嫉妬…だよな、明らかに。


分かっては、いるんだよ。

俺は単なる親友で、彼女が好きなのは島崎先生なんだって事ぐらい。


だけど、先生は彼女の事好きじゃないって言ってたんだ。

それなのに、あんな事……。


「女の子ですし、私が付き添った方が……」


「安以には関係ないだろっっ!?」


彼女の言葉を遮り、思わずイラついて怒鳴ってしまった。


八つ当たり…っていうか、逆恨み?

どっちにしても、彼女は悪くなかったのに。


「……とにかく、俺一人でいいから。行こう?斉藤さん」


「え、えぇ……」


戸惑う彼女に上履きを差し出し。

履き終わったのを確認すると、俺は肩を貸す格好で彼女を立たせた。


「じゃあ、お邪魔しましたっ」


そう言うと、俺は斉藤さんの体を支えながら保健室を後にした。


安以は…追っては来なかった。
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