天使のような笑顔で
「訳って……」


だからと言って、俺が覗いてしまった事を話していいものか迷ってしまう。

キスぐらいならまだしも、あんな事をしてたのを覗いてしまっただなんて。


「彼女に何か言われたのか?」


「……」


言われてないと言ったら、嘘になる。


だって彼女は、俺に島崎先生の事が好きだと言ったんだから。


「お前、好きなんだろ?この子の事」


消毒液を含んだ綿を、先生はピンセットで彼女の口元へと当てていく。

反応が無いところを見ると、意識を失っているのか眠っているのか。


どっちにしても。

傷だらけの彼女は、ひどく痛々しい。


穢れなんかとはかけ離れた存在である、天使のような彼女。

その彼女をこんな目に遭わせてしまったのかと思うと、殴られる以上に胸が痛んでくる。


「……好き、ですよ」


そんな事を言う資格なんて、無いって分かっているのに。

俺の口が、そう言葉を紡いでしまう。


ましてや、勝ち目の無い恋敵に告げるだなんて。

自暴自棄になってるとしか、思えない。
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