天使のような笑顔で
「ホント、ごめん……」


こんな目に遭わせてしまった事。

変な意地を張って、避け続けてしまった事。


今更、許してもらえるとも思えないけれど。

どうしても、安以に謝りたかったんだ。


5時間目が既に始まってしまったのか。

廊下からは、人声が全く聞こえなくなっていて。


俺の声と時計の針の音だけが、この空間に響いている。


「謝るのは…私の方です」


そう言って申し訳なさそうに俺を見上げてくる眼差しに、自然と首を傾げていた。

だって、この状況で安以が俺に謝る必要なんて何もないし。


それとも、島崎先生との事を言ってるんだろうか……?


「真吾君が私を避けてるのは、きっと…私が何かひどい事をしてしまったからなんですよね?」


「安以……」


今にも涙が零れ落ちそうな、漆黒の双眸。

その瞳を見つめ返すのは、とてもじゃないけど無理だった。


だって、そんな悲しい思いをさせているのが俺だなんて……。


「別に、ひどい事じゃないよ」


だって、安以は俺の彼女じゃないんだし。

彼女が誰とどうしてたって、俺には咎める権利なんて何もないのだから。
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