天使のような笑顔で
「斉藤さんを……」


そう呟いた安以は、どこか悲しげに見えて。

それは俺の想定外の表情だっただけに、何だかうろたえてしまった。


「そう、斉藤さんをケガさせちゃって連れて来た日。安以と、そこのドアでバッタリ会ったろ?」


彼女の様子を確認しながら、俺は言葉を紡いでいった。

核心に迫っていく事へのドキドキを悟られないかと、少し怯えながら。


だけど……。


「あぁ、私が先生に肩をもんでもらった後ですね」


あっさりと。

本当に、あっさりと。


安以は、俺にそう告げてきた。


「肩を……?」


俺の言葉に狼狽する様を想像していただけに、普通に答える彼女が信じられなくて。

つい、そう訊き返してしまっていた。


島崎先生も、肩を揉んでいたと言っていた。

安以も、そう言っている。


じゃあ、やっぱりアレは変な事をしていたわけじゃないのか?


でも、口裏を合わせている可能性だってあるし……。


「廊下で先生とバッタリ会って。肩こりがひどいって話をしたら、先生がここで揉んでくれたんです。すごく気持ち良かったですよ」


その言葉には、嘘は無いように思えて。

信じがたい展開に、俺はどうしていいのか分からなくなっていた。


いや、俺的には肩もみであってくれた方がいいんだけど。
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