天使のような笑顔で
「ごっ、ごめんっ」


慌てて、体ごと安以から離れ。

咄嗟に俺は、口元に手を当てていた。


頭の中は、軽いパニック状態で。


いきなりキスなんかして怒ってるかな?とか、嫌われたかな?とか。

一気に不安になってきて、心臓がバクバク音を立ててるのが自分でも分かる。


「何で、謝るんですか?」


だけど、そう言ってくれた安以の声は笑っていて。

恐る恐る顔を窺うと、さっきと何ら変わりない笑顔を浮かべてくれている。


「怒って…ない?」


「彼氏にキスされて、怒る人っているんですか?」


「彼氏…か」


何だか照れくさくて、更に顔が熱くなってくる。


「もう…してくれないんですか?」


そう言った安以の顔は、どこか艶めかしさを感じさせて。

天使のような笑顔の彼女とのギャップに、ドキッとさせられた。


俺だって、もっと安以とキスしたい。

彼女に触れて、抱きしめたい。


その言葉に促されるように、俺はもう一度体ごと安以に近付いていき。

彼女の後頭部を包み込むように、そっと手を添えた。


そして、ゆっくりと唇を重ねようとした時だった。

ガラッという扉が開く音と同時に、


「真人ー、調子悪いからベッド借りるぞぉー」


という聞き覚えのある声が、静かだった室内に突如響き渡ったんだ。
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