猫に恋する物語
私はおずおずと話を切り出した。

シルエットはとても驚いて、そして言いにくそうに、それでも言葉を選んで話してくれた。


“無理だ”と。


はっきり。きっぱり。 言い切った。


それでも私はなおも食い下がった。

なぜ無理なのか。 そう聞いた。

シルエットは答えを難しそうに考えながらゆっくりと話しだした。



「つまり、ここで雇ってくれるところはないの。

昔、栄えていた頃はむしろ人員が足りないくらいだったんだけど今ではその真逆。

人が有り余ってる。

ここは中心に行くほど貧しい人が暮らしているんだけど元は普通に暮らしていけた人たちだった。

金がなくなると皆中心に行くのよ。

今では中心地は貧しい人たちであふれかえってる。

ここはそういう所。

私たちはそういう人たちを見捨ててきた。

ただ傍観してきた。

客観視してきた。

そしてそれは過去形じゃない。ずっと続いていく。

あなたは綺麗な面しか見ていなかったの。

こうしてここに住んでる人たちが優しいのも、自分が追い詰められていないから。

人に優しくできるうちはまだ、人でいられる、すくなくとも人と呼べるものになれる」



シルエットの眼はみるみる冷たく、色を失っていく。


私は怖かった。

□も顔を上げてシルエットを怯えた表情で見つめていた。


「私たちは余所者を嫌うわ。

見捨てるひとが増えていくようで。

体が、自然にこわばるの。

あなたたちにはそろそろ裏の顔を知ってもらう必要があった。

こんな世界で、誰も雇う人なんかいない。

ここでは自分で一からやる必要があるの。

生きていくためには人に頼ってはいけない」







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