猫に恋する物語
□私は、この町の裏の顔を、既に知っていた

この言葉にさらに仰天した私だけれどシルエットはその比ではないくらい驚いていた。

□私は見てたんだ。数分前、私に親切に道を教えてくれたおじさんが、冷たくなる瞬間を。人が人でなくなる瞬間を。

人の皮を被った何者かに変わる瞬間を。

道端でついに力なく崩れ落ちた男の子を、はっきりおじさんは見ていたのに助けることすらしなかった。すぐに視線を前に戻して前に進むと数分後にはおばちゃんと談笑してた。

そのおばちゃんも見ていたはずなのに。まるでその男の子の存在を無視してた。

ここに存在していないかのように。

まるで透明人間であるかのように。


おじさんやおばちゃんだけじゃない。その通りにいた全員、いや、おそらくはこの町の住人全員がそういう人間なのだと。この町には存在を無視したおじさんを非難する人もいないのだと。

そう悟った。瞬間的に。端的に。


□は自分の言葉を噛み締めるように、心を痛めつけるように発し続けた。

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