猫に恋する物語
□何もかもが違う。


それはこの町の風潮。


それは人の心。


私たちの世界にも、私が会ったおじさんみたいな人はたくさんいる。たくさんいるんだと思う。

だけどそれと同時に男の子に手を差し伸べる人も絶対にいるんだ。

だけど、ここでは誰一人いなかった。

チラ、と見ることはしても、まるで展覧会の絵を見ているかのようにすぐに次の作品へと目を移す人ばかりだった。

そこで立ち止まって絵に描かれている、苦悶の表情を浮かべている男の子という人のことを考える人は誰も、いなかった。

男の子の悲鳴にも似た感情に、耳を傾ける人は、誰一人として、いなかった。いなかった。いなかった。いなかった!

□は「いなかった」という言葉を繰り返した。何度も、何度も。

□それは子供のころから教えられていると言っていたシルエットの言葉通りの結果だと思う

この世界では当たり前の生きていくために必要なことだった。人を見捨てる、という行動は

私はシルエット達を非難しているわけじゃない。



きっと私もここで生まれ育っていたのなら、その色香に染まっていたのだから。
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