*SHORT STORY*
「…龍」
誰にも聞こえないような、花火の音でかき消されるような、小さな声で呟いたはずだったのに。
龍はあたし達に気付いて、こっちへ向かって歩いてきた。
晴香はあたしの手を握り、ぎゅっと力を込めた。
あたしは久しぶりに見た龍から、目を離す事ができなくて、晴香の手を握り返した。
あたし達の傍にくると、龍は少し引きつった笑顔を向けた。
「彩実、久しぶり」
皮肉にもあたしと同じピンクの浴衣の、
女の子の手を大切そうに引いたまま―
龍はそう言った。
「久しぶりだね、龍」
「おう、元気してたか?」
「元気だよ」
「俺も」
「そっか」
あたしは、微笑んだ。
龍も、微笑んだ。
ヒュゥゥ‥ドォン
花火で半分照らされる、
龍の笑顔はキレイだった。