立入禁止

涙と痛みで、歪み、霞みゆく女の眼界。


(もう少しで逃げられるはずだったのに……彼の、車に乗って…)


今更考えても仕方のない事を脳裏に浮かべながら女は奥歯を噛み締める。

その間も断続的に続く、肉ごと引き剥がされる感触と咀嚼音。

溢れ出て止まらない涙を流し、薄れゆく意識の中遠くを見遣る女の瞳に何かが映った。

まさか……。

そんな………。

双眸を見開いていると、女の頭部に"アレ"の手が掛かる。



「………た………ぃ…」



震えを含んだ掠れた声で女が呟くと、耳許で何かを無理矢理潰したような気持ち悪い音が聞こえた。

その音を最後に、女は意識がなくなる。

飛び散った血に塗れた懐中電灯は、女の頭部の皮膚が引き剥がされる光景をいつまでも照らし続けていた……。
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