立入禁止
前を向く際に、懐中電灯の先に一瞬何かの影が映り込んだ。
反射的にもう一度、影が映り込んだであろう場所を照らすが何もない。
照らされた先に存在するものといえば、木と草のみである。
神経が過敏になり過ぎて錯覚を見たのかと、女は思わず失笑を漏らし懐中電灯を前に向け直す。
灯りを向けた先には、――佇む小さな白い影があった。
「ひッ……!」
言葉にならない悲鳴を上げて、思わず仰け反る。
灯りに照らされた白い影には、紅く黒い斑点が至る所にある事に気付く。
痣でも傷痕でもなく、薄汚れた白い何かに付着した大量の血痕。
その佇む白い影は間違いなく、先刻まで女が捕まらないように必死に逃げていた"アレ"であった――。