~とある教師と優等生の恋物語~
「ジローが面倒みてるのってあたしだけだって勝手に思ってたのに。あたしが知ってるジローが全部だって思ってたのに。急に遠く感じて……あたしあの夜もあんな怒り方しちゃったの。ごめんなさい」


「、」


「何その顔?」


「あ、いや。……白川って『謝る』って機能ついてるんだなって思って。もしかしてないのかな~とか思ってたから―…」

探るような少し不安げな影を落とした瞳にみとれてたなんて死んでも言えない。


あるよそのぐらい、と軽く睨む彼女の涙がひいていく。


「ジローだってそうやって寂しくなる事あるでしょ。凍えそうって感じることあるでしょ」


(あるよ。あの夜もそうだったから)


「それってあたしだけ?ジローとあたしは似てるって思ってたのに、違うの?」


「…ホントお前って――」


バカだね、と白川の細くて白い指に上から手を重ね、ぎゅっと握った。


香織との事本当に聞きたいの?と顔を覗き込むと黒髪がふんわりと揺れ、


俺の次の言葉を待ち続ける、上目遣いに観念してしまった。


「好きだったのかって聞かれたら……たぶん好きだった。いや、好きだったんだ」


ピクリと揺れた白川の指を抑えるように少し手に力を込めた。


昔の事だけどね、と前置きをして


「弱虫で臆病な俺が、一度だけ香織を奪おうって思った事あんの」


ゆっくりと話し出した。
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