~とある教師と優等生の恋物語~
夏休みは早めに明けた梅雨のせいで、鬱陶しい程の暑さだった。




(母さん、やっぱ嫌か?俺が絵描くの)


母さんの月命日、墓前でそう心で呟く。


何度聞いても答えが返ってくるハズなどないのに、どうしてもここに来てしまう。


青々と茂った木々が撫でるように吹いた重い風にカサコソと音をたてる。


“次郎、分かってやって”


あの日の母さんの必死な眼差しと、すがるように掴んだ俺の腕に食い込んだ母さんの指。


その、女性の力とは思えない強さを俺の体は鮮明に覚えていて。


(ああ……)


無意識のうちに右手でもう一方の腕を守る様に押さえていた。


「そうだよな、母さん。ごめんな」


手向けた花に視線を落とし、それから両手を合わせて目を閉じた。


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