~とある教師と優等生の恋物語~
再び歩きだした俺の背中にまた「お願いがあるんだよ、お兄様から」とタローの声。


「ジロー、また絵描いてよ」と。


「……どういう風の吹き回しだよ」


「だってさ~、なんか最近俺のせいでジローは絵をやめたんじゃないかって遠まわしに言ってくる輩(ヤカラ)がいるんだもん。お兄さんも結構大変なのよ」


「そんなん適当にかわせばいいだろ」


「面倒なんだよ。てかさ、またお前が絵を描いて、そんでそれが超へたっぴで。世間に『あ~、やっぱりジロー君はセンスも才能の欠片もなかったのね。あの絵は奇跡だったのね。絵やめて正解だったのね』って言われてくれると助かるんだよね」


「……」


「だから描きなよ、へたくそな油絵」


「……」


「お兄さんの力になったら母さんも喜ぶだろうし?大切なお兄さんのために描きなよ」


そんで俺がお前を綺麗さっぱり潰してやるからよ、と挑発するようなタローの視線を避けるように母のお墓に視線を走らす。


“次郎、分かってやって”


(……分かってるよ母さん。太郎を苦しませない)


言うほど図太くないタロー。本当は繊細なタロー。
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