~とある教師と優等生の恋物語~
「だけど、危篤になったユカリさんの病院に向かおうとしたあたしに、お母さんが『アンナは私の娘なの。ユカリさんに返すつもりはないからちゃんと帰って来なさい』って怒ってるみたいに言うんだ。

いつもあたしにそんなキツク物事言う人じゃないのにさ。

穏やかであんまり感情的な事を言う人じゃないのに」

展覧会やメディアを通して土屋洋子を見たことがあるけれど、確かに穏やかだけれどどこかドライな雰囲気のある女性だったと記憶している。


「『家族として過ごした時間が私達を家族にしてるの。どんな形にせよアンナがここに居ることにはちゃんと意味がある』って『だから帰ってきなさい』って」


「時間、ねぇ……」


「嬉しかったの。なんか、すっごく嬉しかった。

…もしかして『血が繋がってない。容姿も違う。どうしよう』『サチのが絵の才能がある、どうしよう』って私だけがひとりで焦って壁を作ってきたのかもしれない」


「……けど、そう思うきっかけを作ったのはお前のお父さんなんだし――」


「そう。きっかけはお父さんだった。けど不思議だよね。

お父さんのした事は自然と『そっか。まあ、人間失敗ぐらいいくらでもあるからいいじゃん』って思えるの。

けど、お母さんに対してはあたしはそういう気持ちになれなかった。

それがきっと“壁”なんだろうね。

お互い嫌いじゃないのに…きっかけをつかめないまま、今まで暮らしてきてしまったんだと思うんだ。

……その壁を壊すきっかけをくれたのは……ママだった」


「……」
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