~とある教師と優等生の恋物語~
午後の日差しに照らされた倉澤アトリエで、口髭を撫で回しながら倉澤先生は

「ん~。無理でしょう」


と遠慮のない答えを俺と白川に投げた。


なぜ倉澤先生に白川の油絵とデッサンを見せに行ったのかと聞かれれば、やっぱり後ろめたかったからかもしれない。


間違っても、教師らしからぬことしちゃったから、教師らしいことをしてやりたいとか思ったわけではないけれど。


それに何より、面倒くさかったのだ。これ以上白川を説得するのも、話すのも。


俺には若者の夢見てる未来をこの手で断ち切る勇気もそんな度量もないもの。


イーゼルに並べたデッサンに近づき、倉澤先生は確信したように頷く。


「推薦するに値しない」


(ほらな?)


俺の横にたたずむ黒髪に視線を送ると悔しそうに唇をかんでいる。


いけないんだろうけど。ちょっとした優越感だ。


「な?だから言ったろ?ほら、片付けるぞ!」


「あ、はい」

デッサンをしまう俺と白川の後ろから倉澤先生は


「ジロー君、ちょっとの間に目が曇りましたか?そんな事ないですよね?ズルイですね」

と嫌味を言ってのけた。



(全てお見通しですか)


先生は気づいたんだろう、俺が逃げたことに。
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