秘密恋愛
私の腕を掴んだ彼の手。
彼の手に力が入り、痛さで顔が歪む。
でも彼は私とは反対に笑顔だ。
「い、痛い……。離して?」
「逃げようと思った?そんな選択肢はなかったはずだけど?」
彼はそう言ってクスクス笑う。
「それとも、あの女みたいに血まみれになる事をお望みかな?」
私は首を左右に振った。
あの女性のようにはなりたくない。
死にたくない。
「だったら僕の部屋で一緒に暮らすしかないね。早くしないと人が来るかもしれない。僕の部屋ね、歩いて直ぐだから。行こうか」
彼はそう言って、私のコートの腰の部分から手を入れた。
端から見たら彼氏が彼女の腰に手を回しているラブラブのカップルにしか見えない。
でも、私のコートの中には腰の辺りに彼が持つナイフが当てられていた。
最悪な出会い――。
この時には、そう思っていた。
でも、この出会いが運命を大きく変えていく……。
この時の私は、まだ何も知らなかったんだ……。