魚が空を泳いだら
何気なく、その日の放課後。もう一度美術室へ訪れてみることにした。黒く塗りつぶされたキャンパスを見掛けてから数ヶ月後のことだった。何となく小さく拍動を打つ心臓を撫でつけて、美術室へと足を向ける。今はもう聞こえてくる音は怖くなかった。胸を締め付けることには変わりないけれど、それでも肺は呼吸をすることを辞めなかった。
願わくば、世界が、優しく存れるようにと。
四階の美術室の、木製の扉に付けられた小さな窓から中を覗けば、白い背中が見えた。生き生きとした、背中だった。その向こうに、空が見えた。其処に二匹の魚が見えた。
空の向こうに光があった。