もっと溺愛以上
「私が健康だったら、健吾だって、もう少し桜に気持ちを割いていたはずなんだろうけど、私が病気ばかりだから、桜を一人にしてばかりで、ごめんね」
申し訳なさそうな母さんの声に、私は必死で首を横に振った。
「そんなこと、気にしないで。母さんの体は、交通事故にあったから色々弱ってしまって大変なんだって、わかってるから」
「でも、父さんを独り占めして、ごめんね……」
私に謝る母さんは、本当にはかなげで、いつまでたっても少女のようだ。
高校生の時に交通事故に遭って以来、背負わなくてもいい苦労を背負って、体を治す為に一生懸命に頑張った母さん。
そんな母さんを支えて、愛し続けている父さんには、母さんがいる事だけが全てで、ほかは何もいらないと、口癖のように言っている。
今だって、泣きそうな母さんの肩を抱き寄せて、背中を優しく撫でている父さんの瞳からは、溢れすぎるほどの母さんへの愛情が見える。
結婚して何年も経つというのに、この甘い空気はどこからくるんだろ。
小さな悩みなんて、なんだか、どうでもよくなるから不思議だ。
私は、肩をすくめて小さく笑った。
そんな私の隣で、有星も呆れたように
「もし、柚さんの体になんの問題がなくても、結局、健吾さんは柚さんしか見えてないんだよ」