もっと溺愛以上
「健吾さんが学校まで、送ってくれるってさ。さっき頼んでおいた」
「そう。じゃ、お弁当作っておくね。あ、こないだ、有星の食べっぷりに対応できそうな大きなお弁当箱買っておいたから、楽しみにしててね」
良く食べる有星のための大きなお弁当箱。良さそうなものを見かける度に、買ってしまう事は内緒だ。
にやける顔を見られないように、白菜を刻んだ。
しばらくして、有星は、お風呂に入ると言ってリビングを出た。
こんな事もしょっちゅうだから、彼の着替えも我が家には常備してある。
私の部屋のクローゼットに用意した有星の着替え用の引き出し。
大好きだから、そんなちっぽけな事が幸せに思える。
二歳年上の私の事を、有星がどう思っているのかはよくわからない。
それでも、私は有星が大好きで、苦しい片想いだ。
有星がお風呂に行って、着替えを取りに二階へ上がった。
母と父の寝室の前を通り過ぎた時、開いていたドアから、二人の声が聞こえてきた。
「俺が、柚を愛してるから、大丈夫。このままのんびりと暮らせるさ。
俺には柚だけがいればいいんだ。柚しかいない。だから、何も悩むな」
あーあ。
いつもの事だけど、甘い甘い父の言葉。
検査入院の後、いつも気弱になる母を励ます為に、父は普段以上に母にべったりとして離れない。
いつまで新婚気分なんだ、とあきれるくらいに熱い二人を見ながら育った私でさえ、今の言葉には照れてしまった。
そして、小さく痛む心に蓋をして、有星の着替えを取ってきた。
脱衣所に、有星の着替えを置く時、無性に寂しくなった私は、その着替えをぎゅっと抱きしめて、何も考えないように、しばらく目を閉じた。