もっと溺愛以上
「明日からは、家事はお母さんが、のんびりとするから。桜は好きにしていいのよ。
放課後、友達とお茶したり、買い物したり、我慢しなくていいからね」
みんなで夕飯を囲んでいるとき、母さんが申し訳なさそうに、そう言った。
10日ほどの入院中は、母の見舞いや、家事全てを私がこなしていたから、私への感謝と申し訳なさに溢れた口調。
「ありがとう。そんなに毎日友達と遊んでるわけじゃないけど、誘われたらお茶くらいしてくるよ」
「うん。桜に頼ってばかりで、ごめんね。母さんは大丈夫だから、気にせずに楽しく遊んでね」
「母さん……私も一応受験生だから、勉強もしなきゃ。とりあえず、予備校も休んでたから詰めて行くね」
「あ、そうだった。桜って、お勉強できるから、もう合格が決まってるような錯覚してた……」
くすくすと笑う母を見て、呆れたように、そして愛しそうにほほ笑む父。
何もいらない、母さんさえいれば。そんな気持ちがよくわかるよ。
「で、私ね、美大に行こうと思うんだ……」
そんな、母しか見ていない父に向かって、私は初めて自分の思いを口にした。
「美大……?法学部に行って、俺の事務所で弁護士になるんじゃなかったのか?」
はっとしたように私を見る父。
その顔には、驚きと戸惑い、焦りすら見えた。
母以外に、父をこんな風に慌てさせる事が私にもできるんだなと、なんだか。
私は妙に落ち着いていた。