もっと溺愛以上


「私、絵を描きたいの。……勉強するなら、ほかは考えられない。
正直、今の私の成績だったら、どこの大学にでも合格できそうだけど、私は美大に行きたい。弁護士には、ならない」

はっきりと言い切る私に、父も母も言葉を失っていた。
母の体調優先で、私も父も、自分の予定や感情は二の次に過ごしているせいか、私が自分の思いをはっきりと告げるなんて、滅多になかった。

突然の、そんな私の言葉に、二人が驚くのも無理はない。

「もしかしたら、私の将来は『自称芸術家』で、収入も何もない状況になるかもしれないから。私には、期待しないで」

小さくなってしまいそうな声に、気持ちの弱さを感じるけれど、何年も心に秘めていた思いをわかってもらいたくて、精一杯父と母にその思いをぶつけた。

しばらくは、私の思いを受けとめようと、黙ったままの父と母だった。
驚きを隠せない、その表情からは、賛成なのか反対なのか、読み取る事もできなくて、私の鼓動だけが大きく跳ねていた。

不安な気持ちのまま、ただ黙っていると、ふっと息を吐き、肩の力を抜いた父が苦笑しながら言った。

「『自称芸術家』にならないように、努力しろよ。どうせなら、後々に名を残す芸術家になって欲しいな」

細められた目から伝わる父の優しい気持ちに、私の緊張していた体はほぐされていく。

全身を覆っていた不安も消えていく。

「父さんと母さんには、桜が望む未来を邪魔する権利はないのよ」

相変わらず、穏やかな声で、母さんの声も届いた。

「母さんは、桜が幸せならそれでいいの」
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