もっと溺愛以上
「健吾、有星くんをからかわないであげて。
せっかく、健吾の事務所の後継者になるって決めてくれたのに。
逃げられるわよ」
父さんを諭すような母さんの声に、私は更に訳が分からなない。
後継者だの、逃げられるだの、何も聞いてない。
一体、有星と父さんの事務所とどんな関係があるの?
「有星、どういう事?私に隠してること、あるの?」
「んー。隠してる事、あるなあ。まだしばらくは、隠しておきたいなー」
淡々と、私の目も見ないで、のらりくらりと言ってる有星に、少しイラっときた。
「有星、ちゃんと言わないと、明日のお弁当なしだからね」
「んー。でも、やっぱり、まだ、うーん」
本当に悩んでるのか、ごまかしているのか、有星の考えてる事が全くわからない。
唇をかみしめて、悔しいと思う気持ちを隠さないまま有星から視線を外せずにいると、
「まあ、二人の問題だから、二人で話して解決してくれよ。
とにかく、桜の進路に口は出さないから、桜がしたい事をしたらいい。
俺と柚は、桜の味方だからな」
「父さん……」
「柚の体調にばかり気を取られて、桜の事、ほったらかしだったからな。
せめて、未来は桜の好きにさせてやりたいんだ」
しみじみと言う父さんの言葉が胸に響く。
母さんの体調を優先せざるを得ない日々を、しっかりと受け入れてるつもりでいるけれど、やっぱり寂しさが完全になくなる日なんてなかった。
お互いを一番に考えている父さんと母さんの心の片隅に、私の居場所があるのかどうか、いつも不安だった。