飼い犬に手を噛まれまして
先輩が車のエンジンを切ると、シーンとした静けさに包まれる。
先輩の手が私の手に重なった。
「和香の気持ちは、シカゴで聞いた。俺と二人で行くために努力したって話も聞いた……。
それにアイツ、シカゴのホテルで自分の部屋キャンセルして、俺の部屋に転がりこんできたんだ」
頬に自分の涙が流れた。泣いたって先輩を困らせるだけ……気がつかれないように窓の外に顔を背けた。
それなのに、顎を掴まれて先輩に泣き顔を曝す羽目になった。
「俺は、仕事をあんな風に利用するアイツが許せなかった。
茅野は、俺がアイツを選べばいいと思ってるのか?
部屋でアイツが俺に何してきたか、教えようか?」
「嫌です……聞きたくない……」
先輩の顔を見たくなくて、目をぎゅっと瞑った。
「報告会前に茅野にあんなことした俺にも非がある。だけど、正直それ以上にあの場に来なかったアイツは、どうかと思うよ。
茅野は、どうして欲しかった? 俺がアイツを選べばよかったのか? それとも、二股かけて欲しいのか?
ハッキリしろよ!」
先輩が大声を出されて、体がビクンと震えた。涙が止まらない。