飼い犬に手を噛まれまして

拒絶できない魅惑


─────「痛いっ!」


 机の角に足の小指をぶつけた。今日、三回目だった。

 なんて落ち着きがないんだろう。今日は何をしても空回りばかりだ。

 乾いた洗濯物が床に散らばり、それをかき集めてバスケットに入れる。



 干したてのワンコの布団を畳んでテレビの脇に置いた。


 ワンコ……今夜帰ってくるかな?

 ちゃんとバイト行ったかな?

 ジャージ姿だったけど、着替えはしたのかな?



 冷静に考えれば彼は、帰ってこない私をただ心配してくれただけだ。「朝帰りしてごめよね。心配してくれてありがとう」そうやって言えばよかったのに、なんであんな意地を張っちゃったんだろう。



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