飼い犬に手を噛まれまして


 ざっと部屋の中を見回して変なものがないかを指差し確認。


「あ、ワンコの布団しまわなきゃ!」


 引き戸のクローゼットを開くと、「えい!」と布団を押し込んだ。


「よしっ!」


 通路に積まれた段ボール入りのワンコの荷物は、なんとか言い訳がつくし……大丈夫だよね。


 チャイムが鳴る。髪を整えて、深呼吸を二回した。


「いらっしゃい」


「お邪魔します」


 うちの小さな玄関に、日本人離れしたスタイルの郡司先輩がいるなんて可笑しい。


「狭くてごめんなさい。先輩がうちにいるって、現実味がないです……」


 先輩は「そうか?」と首を捻ると、右手を壁について、そのまま一直線に私の唇を奪う。



 
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