飼い犬に手を噛まれまして



「俺は酒も弱いんだ」


 カフェラテに透明のガムシロップを溶かす。それをマドラーでくるくると混ぜる先輩。

 次々に先輩が自分のことを話してくれる。先輩が私だけを見てくれている。




「そういえば、先輩がお酒飲んでるとこ一度も見たことなかったです」


 カフェラテのグラスを持つ姿が、すごく絵になる。突然、先輩の一角がパリのお洒落なカフェテリアにワープしちゃったみたいだ。



「騙し騙し逃げてるんだ。最近、飲酒運転の罰則厳しくなっただろ? すすめた方も罰金になるから、助かってる」


「あははは! それで、この前の飲み会も車で来たんですね。

 ちなみに、飲むとどうなっちゃうんですか?」


 この前の飲み会、の単語で先輩は、ちょっと眉をしかめた。

 和香には、さっき『ごめんね』と四文字だけのメールをした。



「眠くなる」


「寝ちゃうんですか?」


「ああ、テーブルに伏せて。意識ゼロ」







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