飼い犬に手を噛まれまして
居酒屋のテーブルに伏せて寝ちゃうなんて、すごく可愛いと思った。年上の男性に可愛いなんておかしいけど、会社以外の先輩はちょっと可愛い。
「今、想像したろ? 俺が酔ったとこ」
「はい、バレましたか。先輩みたいな人が酔ってたら、周りの女の人がほっとかなそうですね?」
郡司先輩が俯きながら失笑した。
「実は意識なくして居酒屋のバイトの女の子の部屋で目覚ましたこともある。軽蔑するなよ? それ以外も何回か……」
「お持ち帰りされちゃったんですか?」
「お持ち帰りって、女がそうなった場合だけだろ。男の場合はただラッキーなだけだ」
「ラッキーって、女の子のほうがラッキーですよ。先輩みたいな素敵な人と一夜を共にできたんだから……」
先輩は、ガラス玉みたいな薄茶色い瞳を細めた。
「けど、これからは俺が酒飲まないように茅野がちゃんと見張っとけよ?」
声が低められて甘さが増す。抱きしめられると極上の幸福感を与えてくれる長い腕が私を抱き寄せる。一日中ずっと包まれていたくなるような先輩の香りが広がる。
「はい、頑張ります……」