飼い犬に手を噛まれまして



「茅野さんには、私たちの事でご迷惑おかけしました」


 長い髪を耳にかけて、みはるさんは丁寧に頭を下げた。


「いえ、最初はびっくりしましたけど……こうして深陽さんが来てくれたんだし、人助けした甲斐がありましたよ」


 でも結局は、ワンコがいてちょっと楽しかったんだ。日常生活にほんの少しのスパイス。最後に、私の身勝手な態度で傷つけてしまったのが心残りだ。


 だけど、深陽さんが来てくれたんだ。これで二人がよりを戻してくれるなら、ワンコはもう私に気を使う必要もないし、朝帰りの心配をしなくて済む。


「星梛は、無自覚に強引なところがありますよね。いつの間にか彼のペースに巻き込まれていて、でも悪気があるわけじゃないんです」


「はい、なんとなくわかります」


「真っ直ぐで、可愛くて、素直で、一緒にいると楽しくて……」




 返事はしなかったけど、その通りだと思った。




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