飼い犬に手を噛まれまして


 前にワンコと一緒に来た時、彼は迷わず窓際の席に座り、メニューも開かないでオムライスを二つ注文したっけ。


 もしかしたら、お店の人でワンコのこと知っている人がいるかもしれない。




「いらっしゃいませ……あ……」


「わっ……ワンコっ!」




 ギャルソンスタイルのワンコは、ぎょっとした顔をしてその場にフリーズした。


「見つけたぁ……」


 よかった、今日中にワンコ探しだせたよ。ホッとしたら、涙がハラハラと流れてきた。
 
 これでシンガポールに行く前に、深陽さんと会わせてあげられるかもしれない。



「紅巴さん? どうしたんすか? 泣かないでくださいよ……嗚呼、もう!


 マスター、すみません! 十分休憩もらってもいいっすか?」


 厨房から「あいよー」と太い声が返ってきた。


「紅巴さん、ちょっとこっち来て」と肩を抱かれて、うんうんと頷いた。店内はお世辞にも賑わってるとは言えないけど、それでも何人かお客さんがいて、何事かと私たちを見ていた。







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