飼い犬に手を噛まれまして
萌子先輩おめでとうの会は、萌子先輩という強烈なキャラのおかげで大いに盛り上がった。
盛り上がってきたところで、仕事を終えた未来の旦那様が登場して、萌子先輩が急にしおらしくなっちゃったりして、皆笑いをかみ殺すのに必死だった。
萌子先輩の彼は、とにかく『いい人』を代表するような男性だ。ニコニコしていて、低姿勢で萌子先輩を、萌子さん、と優しく呼び、一生懸命皆にお酌していた。
「茅野さんですよね、萌子さんからいつも聞いてます」
「仕事で失敗した話とかじゃないですよね? あはは、萌子先輩みたいに、なかなか完璧になれなくて」
「いえ、茅野さんのこと本当に可愛い後輩だって聞いてますよ。一生懸命でほっとけない、って……
萌子さん一度仕事を辞めようか悩んだことがあったみたいで、でも茅野さんと二人で仕事するようになったら楽しくできたみたいです。ありがとうございます」
「え……? 萌子先輩がそんなことを?」
萌子先輩の口からそんなふうに私の話が出るなんて……
隣でジンジャエールを飲んでた郡司先輩に「よかったな」と肩を叩かれて、ちょっと泣きそうになった。
「これからも、萌子さんと仲良くしてあげてくださいね」
「はい、あの……こちらこそよろしくお願いします」