飼い犬に手を噛まれまして
自転車は、ぐんぐん進みセレブリティな香り漂う大学の門をくぐる。
「すごい大学だね……よくわかんないオブジェとか、いっぱいある……」
「芸術家が作った作品が学内のあちこちにあるんです。
あんなもん親の見栄みたいなもので、ほとんどが寄贈品なんですよ……一つ数千万するのとかあるのに、落書きする奴とかもいるんです。笑っちゃいますよねー」
「すっ数千万? ごめん、笑えない」
ぐう、ワンコのくせにセレブリティな発言してるよ。
ワンコは、自転車置き場で停止すると、そうでしたか? と首を傾げた。
顔にかかる黒髪が、風でフワリと揺れる。
「髪の毛伸びてるね。就活してるなら、切ったほうがいいよ」
髪に手を伸ばして、慌てて引っ込めた。
「どうして今、手を引っ込めたんですか?」
髪の合間から、意志の強そうな瞳が私を捕らえる。
「べ、別にいいでしょ!」
「いいですけど、紅巴さんよかったら後で切ってくれませんか? 俺、知らない人に髪触られるの大嫌いなんですよ」
「えー? 無理無理! 髪なんて切れない!」