飼い犬に手を噛まれまして
誰の話をしているか、すぐにわかった。
「彼を見てると、何かを始めるのに遅いなんてことはなくて、いつでもスタートラインは自分で引けばいいって思うんです」
喉の奥に何かが、ぐっと詰まった。先輩と彼女は、ずっとそうやってお互いを見てきたんだ……
私は、そういう先輩をどれだけ知ってるんだろう?
いつもいつも成功している先輩しか見ていない気がする。
「紅巴さん?」
ワンコが心配そうに私の顔を覗き込む。
「感動したんすか?」
ボロボロと涙を流す私を見て、首を傾げてる。
悔しいから、涙が出るんだ。学生時代の先輩を私が知ることはできないし、先輩が苦労して今のポジションにいるなんてこと全然知らなかった。
好きだから先輩のこともっと知りたいのに、こんな風に先輩の話を聞かされるのは嫌なんだ。