飼い犬に手を噛まれまして

「俺、紅巴さんがいなかったら今頃もっと寂しかったかも。金が稼げないなら、ホストでも勤めて……体売ってどうにかすればいい、って考えてたし」


「ワンコ? そんなのダメだよ……」

「友だちでしょ? 星梛って、呼んでみて」


 今、星梛って呼んだら、私も大切な人を呼ぶような声が出ちゃうかもしれない。それこそが、先輩への最大の裏切り行為みたいにも思える。


「ワンコ、やっぱお友だちごっこ止め! 私とワンコの場合は、ちょっと違うじゃん。意味ないよ。それにお友だちは裸になって抱きついてきたりしないの!」

「ですよね……俺もそう思いました」


 ワンコは私の両手を掴むと、床に押し付けたまま真面目な顔をしてじっと私を見つめてくる。

 その瞳は真っ直ぐで、余裕なんてなくて必死に震えてる。



「少なくとも、今の俺は紅巴さんに友だち以上の感情を抱いてる……」



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